MADI ライブ・レコーディング 神戸JAZZ 2011 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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導入事例
神戸JAZZ 2011

MADI ライブ・レコーディング - 神戸JAZZ 2011

港町神戸で2005年から毎年行われている「神戸JAZZ」は、JAZZに関わる様々な体験事業を通じて、次世代を担う青少年達の心と夢を育む事を目的としたユニークなイベントだ。プロのスタッフに混じって音楽業界を目指す中学生~大学生(専門学校生)、市民ボランティアが制作スタッフとしてイベントに参加しており、彼らはプロのスタッフと共働で半年もの準備期間を経て本イベントに臨む。「JAZZ発祥の地」と言われる神戸だけあって、まさに市民一丸となって創り上げているイベントであり、今年も大成功のうちに幕を下ろした。

神戸JAZZ実行委員会からの依頼で、2年目からコンサートのライブ・レコーディングを担当しているのが、神戸JAZZの主旨に賛同されたレコーディング・エンジニアの行方洋一氏である。昨年よりRMEのMADIソリューションを活用したレコーディング・システムに切り替えた行方氏の話を交えながら、当日のライブ・レコーディングの様子をお伝えする。

2011年10月2日 神戸文化ホール

RME MADIレコーディング・システム
当日使用されたRME製品群

神戸JAZZ 2011で行方氏が使用したライブ・レコーディング/中継放送用ミックス・システムは、RMEのMADIソリューションを活用したシンプルなシステムだ。当日のPA卓はヒビノ株式会社の協力のもと、デジタル・コンソールの先進ブランドであるDiGiCoのSD8が設営された。Stage Rackから出力された48chのMADI回線をMicstacyに入力し、アンビエンス用のマイクを2本足して計50chとなったMADI回線を再びMicstacyから出力して、レコーディング用のノートパソコンに接続したHDSPe MADIfaceに送る。ノートパソコンにはRME Global Recordがインストールされ、これがメインのレコーディング・ユーティリティとなる。

もう一方で、Micstacyから並列で出力したMADI回線はHDSPe MADIを装着したバックアップ用のコンピュータへと送られた。バックアップ用のコンピュータにはSteinberg Nuendo5がインストールされており、前述のGlobal Recordと平行してレコーディングが行われる。RMEのMADI製品は回線の二重化が標準で施されており、失敗が許されない現場には最適な仕様であり、なおかつ今回の様な回線の頭分けも容易に行えるメリットがある。

今年からはUstreamの中継放送が加わった事で、行方氏はレコーディングと中継放送用のステレオ・ミックスと2つの作業を行う必要がある。そこで行方氏の発案でNuendo5のキュー・ミックス機能を使い、Nuendo5のミキサーでステレオ・ミックスを作成する事になった。Nuendo5でステレオ・ミックスが施された音声はADI-642へと送られる。ADI-642でMADIからAES/EBUに変換された音声はFireface UFXへと送られ、Fireface UFXのアナログ出力からUstreamの中継放送、モニタリング用のヘッドホン等、アナログで計6系統が送られた。

MADIレコーディング・システム図
MADIレコーディング・システム図(クリックして拡大)

今年で二度目となるMADIソリューションでのレコーディングを行った行方氏に、MADIの使用感を訊いた。

「MADIを利用したレコーディングは今年で2年目ですが、昨年も同じ神戸JAZZで利用して今流の便利さを体験し、こんな規格が十数年前に考えられ標準化されていることに驚きました。さて、今年はというと、このMADIシステムをもっと私なりに使いこなそうといろいろ考えました。考えて、使えば使うほど、このシステムすごさを感じるばかりでした。最高 ! !」

メインのレコーディングで使用したGlobal Recordは「CPUに負荷を掛けずに安定したレコーディング」を実現するために開発されたRME のユーティリティで、比較的非力なコンピュータでも驚く程のパフォーマンスを発揮する。実際に今回のライブ・レコーディングに使用したコンピュータのスペックは搭載CPUがCore 2 Duo U7500(1.06GHz)、RAMは1GBとレコーディング用途には非力な感もあるが、50ch/24bit/48kHzもの膨大なデータを、4時間以上もバッファー・エラーを起こさず(波形の損失無し)の状態で記録する事に難なく成功した。これもまた失敗の許されない現場には最適な仕様だ。

MADIの利便性、安定性はさることながら肝心な音質はどうだろうか。行方氏に訊いた。

「今回のシステムについての音質ですが、前日のプロのリハーサル時に面白い出来事がありました。それは本番最後に演奏するアンコール曲の音合わせに、学生選抜の演奏者(ソロ担当)の方々は本番当日にしか来れないので、当日、学生さんに音楽の流れ等々を感じて頂こうと言うことで、リハーサル時にプロのカラオケを録音することになりました。その場でミックスダウンを行ったカラオケのデータをPAさんに渡し、録音したカラオケをPAからプレイバックをした際、会場内にいたプロのミュージシャンの方々が音質に対して最高の評価をしてくれました。『凄いね !』と。

本番後は東京に帰りトラックダウン作業にかかりました。少々時間が掛かりましたが、MADIを50chのWAVデータに書き換えて、この素材をNuendo5に読み込ませミックスダウンのスタートです。ここからは普段のスタジオ録音と同じです。私なりの考えで音作りをし、パワーバランスを整えて作品は完成しました。音質的にはまったく問題なく、中継車を使っての録音とまったく同じクオリティの、もしかするとそれ以上の音楽性豊かな作品が完成しました。

それと今回の音質の良さにはPA卓の良さも関係しています。PA卓にはDiGiCoを指定し、DiGiCoの輸入代理店であるヒビノ株式会社の徳平さんのご尽力により設営して頂きました。DiGiCoを使えた事も成功のポイントでした。もちろんRMEの機材なしでは出来なかった事ですが。新しい考えによる新しいライブ録音、そして中継等々、時代はここまで進化していることに気付かされた録音でした。蛇足ながら、当日中継されたUstreamをご覧になったお客様から音の良さに対してのコメントも貰いました。」

RMEのMADIソリューションが可能とした設営作業とワークフローの効率化、そしてクオリティの向上。今後のデジタルレコーディング、デジタルPAの現場にさまざまなメリットをもたらすことは間違いないと、強く実感できた現場だった。

行方洋一(なめかたよういち)Recording Engineer, Producer

行方洋一

1943年東京生まれ。東芝EMI(旧東芝音楽工業)録音部に入社後、坂本九、弘田三枝子、欧陽菲菲、渚ゆう子、奥村チヨ、小川知子、浜圭介などの作品を担当。その後、制作部に移り、プロデューサー&ミキサーとして読売交響楽団、徳永二男などのクラシックからアンリ菅野、前田憲男、ジョニー・ハートマンなどのジャズまで幅広く手掛ける。フリー転身後も太田裕美、ゲームソフト「ドラゴンクエスト」などの音楽録音の傍ら、オーディオ雑誌やイベント等でのオーディション評論活動も行う。また東芝EMI在籍時にExMFシリーズを立ち上げ、オフコース、チューリップ、アリス、甲斐バンドなどのアルバム全64タイトルをリマスタリング・リリースするなど、音の世界で数々の体験をしたノウハウをベースに、ハードからソフトまで幅広い見識や、職人技的なテクニックを使うキャリアの長いエンジニアならではの魅了を兼ね備えた人物である。現在では、大手メーカーの高音質音源配信のマスタリングをはじめ大手各社のアドバイザーとして活躍中。

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