新しいアンビエントの概念を提示する「AMBIENT KYOTO 2023」 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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新しいアンビエントの概念を提示する「AMBIENT KYOTO 2023」

新しいアンビエントの概念を提示する「AMBIENT KYOTO 2023」

アンビエントをテーマにした視聴覚芸術の展覧会「AMBIENT KYOTO 2023」が10月6日より12月31日まで開催中です。昨年はアンビエント・ミュージックの創設者ブライアン・イーノの展示を開催して人気を博した同展覧会ですが、今年はCorneliusや坂本龍一などの国内アーティストにフォーカスし、サウンド・ディレクターにZAK氏を迎えた内容となっています。さまざまな視聴体験ができる展示室のひとつに、RME Fireface UFX+も導入されていました。この記事では「AMBIENT KYOTO」の展示レポートと合わせて、同展示のサウンド・ディレクターであるZAK氏のインタビューをお届けします。


アンビエントの振り幅の広さを感じられる“新たな体験”

昨年のブライアン・イーノに続き、今年は世界水準の国内アーティストに注目した「AMBIENT KYOTO」。その流れはとても自然で良いものでした。なぜなら今、日本のアンビエント・ミュージックには世界的な注目が集まっているからです。日本の1980年代~1990年代のアンビエント音楽をコンパイルした『KANKYO ONGAKU』が、2019年のグラミー賞の最優秀ヒストリカルアルバム部門にノミネートにされたのを機に、これらの音楽は世界に知られるようになりました。「AMBIENT KYOTO 2023」に登場する坂本龍一、山本精一、Cornelius、Buffalo Daughterらも広く見れば、その系譜に入るアーティストたちと言えるでしょう。

AMBIENT KYOTO 2023会場

AMBIENT KYOTO 2023は京都中央信用金庫 旧厚生センターと京都新聞ビル地下1階の2つの会場で開催されています。前者にはCornelius、Buffalo Daughter、山本精一の作品が展示されていました。Corneliusは3つの作品があり、2023年発売の最新アルバム『夢中夢』収録の「霧中夢」、「Too Pure」、シングル『火花』のカップリング曲「QUANTUM GHOSTS」の3つの楽曲が映像や演出とともに体験できます。「霧中夢-Dream In Mist-」は、特殊演出による霧が散布される空間で、いたるところにスピーカーが設置され、楽曲に合わせてライトが変化する展示でした。

霧中夢-Dream In Mist-

霧が濃くなると距離感が消失し、合わせて霧の効果もあるのか、耳が研ぎ澄まされる感覚もあり、とても新鮮な体験ができました。

「Too Pure」は部屋一面に設置されたLEDスクリーンにストーリー仕立ての煌びやかな映像が映し出されていました。「QUANTUM GHOSTS」は階段の上に組まれたステージがリスニング・エリアで、スピーカーがステージを囲むように配置されていました。この展示はシンプルなライティングのなかで、わかりやすくマルチ・チャンネルの楽しさを体感できる演出でした。

Buffalo Daughterと山本精一は同じ展示室で、ともに映像作家とのコラボレーションです。

Buffalo Daughterと山本精一の展示

Buffalo Daughterはアヴァンギャルドな映像とともに、天井に張り巡らされたスピーカーのいろんな場所から音が飛び交います。それもあり、能動的に音の響きを求めて、思わず会場内を動き回りたくなりました。山本精一はアンビエントな楽曲を抽象的な映像とともに展開していました。解像度の高いサウンドには心地よい低音感もあり、音をしっかりと楽しめる印象でした。

京都新聞ビル地下1階では坂本龍一 + 高谷史郎の「async - immersion2023」が開催されていました。

坂本龍一 + 高谷史郎「async - immersion2023」

こちらは今回の展示のなかではもっとも大きな空間。新聞印刷工場の跡地はインダストリアルな雰囲気もあり、そんな空間を囲むようにスピーカーが配置されていました。空間を生かした音響的な演出に加えて、場面によっては迫力のあるサウンドを体感できました。今回の展示のなかではもっともアンビエント的な意味合いの強い内容でした。

ブライアン・イーノはアンビエントのことを“対峙して聴く音楽ではなく、空間と一体化したサウンドに身を置くという環境としての音楽”と提唱していましたが、「AMBIENT KYOTO 2023」で感じたのは、より能動的にビジュアルと音を体感する楽しさ、そこから感じる心地よさが印象に残りました。その意味でもアンビエント・ミュージックの多様性を感じ取れ、新たな体験ができるイベントでした。


単純に“気持ち良いかどうか”に尽きると思っていました
なぜならそこに理由は必要はなく、考えなくてもいいからです

サウンド・ディレクター ZAK氏

今回の展示全体で目指したイメージというものはありましたか?

実は具体的にはないんですが、いわゆるアンビエントと言うと、ブライアン・イーノに集約されるのかなと思うところもあって。だから今回「AMBIENT KYOTO」という名前で展覧会を行うことになったときに、あらためて“アンビエントって何なんだろう”と考えました。AMBIENT KYOTOの特設サイトに掲載されているのですが、朝吹真理子さんのエッセイやアーティストの大竹伸朗さん、そして僕もインタビューしてもらっていて、それぞれが思うアンビエントを言語化してもらっています。それを読んで、自分なりのアンビエントの解釈を見つけてもらえたらいいのかなと。アンビエントはひとつでくくれるものでもないですから。

サウンドで表現しようとしたものはありましたか?

音だけで言うと、単純に“気持ち良いかどうか”に尽きると思っていました。なぜならそこに理由は必要はなく、ロゴス的に細かく一つの物ごとを考えなくても良いからです。ただあるもの(響き)を受けとって感じてもらえれば、それぞれで勝手に再構築されていくのかなと思います。

考えなくても良い体験、そこが今回の展示でのサウンドの特徴なのかなとも感じました。

何か特別なものを探して見にいく感じではなくて、もっとリラックスして開いた心で見るというのをしてもらえたら良いなと思っています。日本は公共の場所でかつ人がいる状況って、少し緊張度が高いと感じるんです。その緊張を緩和するにも音は大きな要素を担っています。なので、例えばカタルシスのようなものだけに重点を置いて、それがすごく緩いレベルで持続するとか。今回の展示で言うと「async - immersion2023」もそんな感じです。意味の或るものの間にある境界線に立って、何も考えずに現象を味わってもらえたらいいなと。そのための”音”になっている、そんなイメージです。

各展示室では異なるタイプのマルチ・チャンネルのシステムが導入されていて、趣の異なる立体音響のサウンドを体験できました。

やっぱり音は空間との共存が大事なので、各会場の場所に合わせていったらそれぞれのシステムが出来上がったという感じです。スピーカーは各作品のサウンドの特徴に合わせてセレクトしました。同軸のスタジオ・モニターもあれば、PAスピーカーもあるし、PAのサブウーファーもあります。「async - immersion2023」は今までにないシステムを構築していますが、基本的には今あるフォーマットを少し変化させるという形が分かりやすいし、親しみやすいかなと。その意味でも音は分かりやすく聴かせたいという気持ちもありました。

RMEは映像に合わせるようなイマーシブ・サウンドを作りやすい

サウンド・ディレクターZAK氏、リゾネイトウィズ山本哲哉氏、SCアライアンス渡邉武生氏

会場空間に合わせた音像の設計は、どのように進めていったのですか?

アタマのなかで何個かパターンを作っていて、システムも含めてのイメージがありました。それを会場の大きさやスクリーンの配置に合わせて表現していくという感じです。自分のスタジオのシステムがDolby Atmos の9.1.4なので、まずそこで今回の展示用ミックスを仮想で立ち上げ、オブジェクトでイメージする音像を作っています。今回は会場でも、Dolby Atmos Rendererを通してミックスをしました。スピーカーなどの機材選定に関してはリゾネイトウィズの山本哲哉さんに、会場ごとのスピーカーのチューニングはSCアライアンスの渡邉武生さんと一緒に進めています。僕が事前に作ってきたミックスを現地で鳴らすと、ほとんどがイメージも崩れずに近い感じになるので助かりますね。

RME Fireface UFX+を導入したCorneliusの「霧中夢」の展示ですが、こちらは展示の曲名通り、霧のなかで音楽と視覚体験ができる内容でした。

あの部屋は霧が充満して本当にすごいです……。中は宇宙船みたいで、五感で楽しめると思います。霧による空気中の水分子のおかげで音速も上がっているので面白い体験ができると思います。そういう意味でも、この展示では自分の感覚が広がるような体験をしてもらえたらいいですね。

「霧中夢」の展示で目指した音はありましたか?

スピーカーのセッティングでは、まんべんなく音を出すということ、あとは空間的にも広くはないので、音が出ているところの違和感を減らすことを心がけました。ちなみにスピーカーのシステムは8.1.2chで組んでいますが、霧が出るという特殊演出があるので、防滴のスピーカー(BOSE AMU 206B)を採用しました。

Cornelius「霧中夢」

オーディオ・インターフェイスにRMEのFireface UFX+を採用した理由は?

「霧中夢」の展示スペースの特性と、Corneliusの楽曲に合うと思ったからです。サウンド・キャラクターは中高域の“玉”みたいな感じの音が早いですよね。インターナルのワードクロックで動作している状態だと、ローが出ているのにスッキリしていて綺麗です。超高域も出ていますが、少しナロウな感じもある。今っぽい映像に合わせたようなイマーシブ・サウンドを作りやすい印象もあります。

RME Fireface UFX+

最後にサウンド・ディレクターであるZAKさんから見た「AMBIENT KYOTO」の楽しみ方について教えてください。

好きなアーティストの展示を目当てに来てもらっても全然良いのですが、すべての作品がつながっているので「AMBIENT KYOTO」というイベント自体を意識してもらえたら、もっと深く楽しめると思います。それと、今回の会場全体に言えることですが、1カ所だけでずっと見ているだけだと分からないこともあるので、能動的に見て聴いて、感じとってもらえるといいですね。もちろん展示を見て、ぼんやりしてもらってもいいです。例えばBuffalo Daughterと山本精一さんの展示室は広いから、やろうと思えばヨガだって、側転だってできます(笑)。心を開いてリラックスして、好きなことをしてもらえたらいいなと思っています。 開期が大晦日まで伸びたので、季節による音の変化も含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。

ZAKZAK
サウンドディレクター
FISHMANSなどの仕事で注目を集める。UA、BUFFALO DAUGHTER、BOREDOMS、坂本龍一、フリクション、原田郁子、相対性理論、やくしまるえつこ、青葉市子、三宅純など、多くのアーティストのレコーディングやライブ、現代美術の村上隆との共作、演劇、展示作品、近年は公共施設など様々な音響も手掛けている。

AMBIENT KYOTO 2023(アンビエント・キョウト2023)

参加アーティスト

[展覧会]
坂本龍一 + 高谷史郎、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一

[ライヴ]
テリー・ライリー、コーネリアス

[朗読]
朝吹真理子

会場

①京都中央信用金庫 旧厚生センター(展覧会)
②京都新聞ビル地下1階(展覧会)
③東本願寺・能舞台(ライヴ)
④国立京都国際会館 メインホール(ライヴ)

会期

2023年10月6日(金)- 12月31日(日)*休館日:11月12日(日)、12月10日(日)
テリー・ライリーのライヴ実施日:10月13日(金)、10月14日(土)
コーネリアスのライヴ実施日:11月3日(祝・金)

開館時間

9:00-19:00 入場は閉館の30分前まで

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